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~勝山ゆかこインタビュー [後編] ~

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ー勝山さんの絵は何かを写生しようという絵ではないですよね

 子供の頃は、そっくりに描かなきゃいけないって教えられて、それを真剣にやってましたね。だんだん変わってきたんです。すごく観察して、そっくりに描くことはできるんですけど、観察すればするほど、実際はそうじゃないんじゃないかって思い始めたんです。たとえば、花を描いてても、花びらの側面とその隣にある空間が繋がっているように感じてきたんです。その境目は、肉眼では確かに存るんだけど、それは、私という人間の視点であって、本当は境はないんじゃないかって、思ったんですよ。21くらいのときかな、境は必要ないって。それまでは、わりと写実的だった。

ーじゃあ、絵を描く、つまり平面上になんらかの形を取る根拠っていうのは、どのへんにあるんですか?何を、そこに描こうと思うんですか?

 たとえば、雲とか、ずっと観察し続けて、雲の流れや形を全部忠実に描き写してくと、見えてくるものがあって。書道で言う「入って抜けて」なんですけど、そういう、美しい自然の流れっていうのは、ほとんど全部一緒なんですね。音楽も一緒。書道も一緒。美とされているものは一緒なんだって思ったんですね。
 そうなると、絵を描くことや表現することが、自分にとっては哲学みたいになってきます。絵とは?っていうところから入って、こういう、自然界の物体とは?ということになってく。そういう自然の波動だったりとか、絶対的な元のものを表現したくなってきて、だんだん形はなくなってきました。

ーあのオブジェもそうですね?なんかこう、向き合って波動を出し合っているっていう。あの形をとってるけど、ひょっとして、人間もそういうふうに見えますか?

 見えてますね。もう、そんなふうにしか、見えてなかったですね、以前は。嫌いだったんで、人間は。その、何かいい波動を出すんじゃなくて、いがみ合ってたりとか、そういう波動しか見えて来なかったんで。なんて言うんですか?セキュリティーの、こういう赤い光線、ああいうかんじだったんです(笑)。しがらみっていうか、どこを触っても、いやなことばっかりがあって。

ー仕事がお休みの日とか、何してました?

 なんか、ずっと絵を描いたりしてましたね。

ーオブジェとか、ああいう作品も?

 作ってましたね、絵を描くのと同じような感じで。部屋の中は、いつもガラクタだらけでしたね。会社の上司も、いらないものをくれるんです(笑)。シュレッダーで、業務用の紙とか出るじゃないですか。「持ってくか?」って言われて、「持ってきます」って、もらって来るんです。別に、何かやってるって知ってるわけじゃないんですけど、ちょっと変わったヤツだっていうのは、みんな知ってて(笑)、いらないゴミが出ると「持ってくか?」って。

ーベニヤ板に描いた絵があるじゃないですか。あれは、なんで板に描き始めたんですか?

 最初は、単純に、キャンバスが高かったからなんです。キャンバスって、高くて完成されたものじゃないですか。あるときふと、この、商品として完成されたキャンバスを越えられる絵って、わたし描けるの?って思っちゃったんですよ。キャンバスはキャンバスのまま、もう完結した方がいいんじゃないかって。
 で、ベニヤ板だったら、大きさも自分でノコギリで切れるし、いらなくなったら燃やせる。最初は、そんなところから入ったんですけど、実は、ベニヤ板に描いた方が照りもいいし、だんだんキャンバスに描くよりも好きになりました。

ーそこで、紙とか、いろいろ試すんじゃなくて、ベニヤ板に行ったのはなぜですか?

 力強さかな。オイルも結構使うんで、耐久性とかも。布に直接描いてみたこともあったんですけど、うまくいかなくて。布って思った時に、すぐ部屋にあるもので、カーテンに描いてみたこともあるんですけど。

ー彫金をやろうと思ったのは、なぜですか?

 いろいろな仕事をしながら、ずっと、作品を作ってきたわけなんですけど、どっちもなんか、仕事にしても、作品を作るにも、プロじゃないし、プロとして何かをやりたいって、思い始めたんです。プロっていうのはつまり、お金が発生するもので、お金になるもので、表現しながらできるものはなんだ、って考えた時に、たまたまそれが彫金だった。

ー仕事として成立させようっていうのが、最初からあったわけですね?

 そうですね。でも、本当に最終的な目標は、発言権が欲しいんです。
 少数派は、いつも取り上げてもらえなくて、みんなと同じ意見の方に絶対流れるんですよ。いつも、それを疑問に思ってて、自分のアイディアは、結構いいアイディアだと思ってるんだけど、誰も聞いてくれないって。だけど、いつか発言権を得られたら、それを言いたいって、言わせてくださいっていう、言う場が欲しいっていうか。何かの実績があれば、多少は、まったくはじいてた人も、多少は、耳を傾けてくれるかなって思って。

ー発言権ですか。それは、何か具体的なことを目指してのものなんですか?

 最終的には、言い方はちょっと違うんですけど、ボランティアのようなことじゃないかと。なぜか常に、精神的に悩んでいる人とか、貧しい国にたまたま生まれちゃって、生活が出来ない子供たちを、なんとかしてあげたいっていう気持ちがあったんです。ボランティア活動をしたいっていうかんじとは、ちょっと違うんですけど。
 一時期、親に相談したことがあるんですね。給料を全部寄付したらいいんじゃないかって言われて、それはできないって思った時に、自分の考えてることは偽善なんだろうかって、思ったんですけど、でも、やっぱり、そういうことじゃなくて。
 今は、お客さんが結構来てくれて、会社でこういう悩みがあるんですっていう話まで、なぜか行ってしまって、私も、結構経験がある方なんで(笑)、そういう相談にのってることの方が、商売していることよりも、すごく嬉しくて。「あ、役に立てた」みたいな(笑)。

ー今の日本の社会って、勝山さんにはどんなふうに写ってるんですか?

 なんか、やっぱり、お金持ち優遇の社会の延長に歪んでしまって、それが、子供達にも影響が来てて、歪みに歪みきってるって感じます。

 私、小学校の頃から、日本はもう終わりだって思ってたんですよ。日本から脱出しなきゃって。日本を動かしている人達のやってることが、到底正しいことだと思えなくて、この人達が動かしているんだったら、もう日本は終わりだと思ってましたね。
 で、社会人になりたての頃は、大人の社会はきっと大丈夫、日本のトップがああであっても、小さな社会を見れば、大人の人達はきっと大丈夫って、思ってたんです。けど、就職して知ったのは、子供よりひどい世界だったっていう。
 もうどうしようもないなあと思って、24ぐらいのときに、わたしはもういいって、思ったんですよ。絶望しちゃったんですね。憧れてた大人の世界はないんだ、もっと歪んでるんだって、もう死にたいって。まあでも、ただ死ぬのもなんだからって、旅に出たんです。ニュージーランドに行って来たんですけど。

ーニュージーランド?どういう経緯でニュージーランド行ったんでしょうか?

 なんで行ったんですかねえ……。別に、理由はなかったと思うんですけど、どこでも良かったんですけどね。衝動的で、もう、保険とか、一切みんな解約して、有り金ぜんぶ持って行ったんです。帰って来ようっていうつもりも、なかったですからね。2、3週間くらいいたのかな、ちゃんとしたホテルじゃなくって、だいたい、停まってる車に潜り込んだりとか、安いところで相部屋で寝たりとか、そう、公園の水道で頭を洗ったりしながら、転々と、一周、まわってきました。雄大な、壮大な大自然で、やっぱり、こっちの方がいいなって思いましたね。動物になった気分。

ーそこで何か、絵を描いたりとかは、してましたか?

 描いてましたね。画材は、持って行きましたね。それで、やっぱり木の板が必要なんで、木工所を探して、探したけどなくて、お店の人に教えてもらって、訪ねて行って、木工所の人に「どんなのがいいんだ?」とか「こういう素材だけど大丈夫なのか?」「どのくらいの大きさに切るんだ?」とか、なんか、そういう、向こうの人達との会話の中で、やっと、「あ、人っていいな」って、思えたんですよ。
 郵便局に行って、分からなくて困ってたら、なぜか、おばあちゃんが手伝ってくれたり、世話を焼いてくれるんですよ、みんな、言葉もわかんないのに。そこが、すごく良くって。木工所の人も、この板を3等分にしてくれって言ったら、ああいいよって、切ってくれたんですけど、手元に来たら、ぜんぜん3等分じゃないんですよ。ばらばら(笑)。3枚だけど、等分にはされてないんですよ。ああ、このくらいでいいんだなあって思って。この適当さでいいんだって思って。

ーニュージーランドで救われて、良かったですね。

 ほんっとに良かったですよ(笑)。そこから、再出発ですね。
 で、ニュージーランドの後に、フランスとグアムに行ったんです、ほとんど同時期に。まったく文化が違うじゃないですか、かたや、理屈っぽい文化を重んじるような、かたや、裸でチャモロダンスしてるような、全く異文化で。けど、実際に行ってみたら、あ、同じなんだって思ったんですよ。たまたまこっちはネクタイしてるけど、こっちは、たまたま裸なだけで、でも、一緒なんだなって思ったんですよ。そこに境界線みたいなものはやっぱりないんだって。

ーそれは、何でそう感じたんですか?

 なんでですかねえ、なぜ思ったのかは、わからないんですけど、踊ってる人達の顔とか、まあ、踊ってるとこを見てたら、そう思ったんです。ただ脳天気に踊ってるわけじゃないんだっていうか。
 フランスに憧れはあったんですけど、街の造りとか、街全体を、そこに住んでる人が、楽しんで、愛してるのであれば、理想のところだって思って行ったんです。けど実際は、もちろん、街はすごく良くできてるんですけど、すごく、貧富の差が激しくて、パン屋さんの前でパンをせびってる女の子とかいっぱいて、あ、楽しいばっかりじゃないんだなって、思ったんですよ。
 だけど、自分は、お金を持ってる人にも持ってない人にも、みんなに平等でありたいから、理想は無料で、無料で何かを提供したいっていうのが理想なんですけど。お金がないからこの曲が聴けない、とか、お金がないから絵が見れないって、そうじゃないじゃないですか。

ーどんな世の中が理想で、どんな世の中になって欲しくて、自分は、何をしていたいですか?

 自分は、貧乏でいたいですね。貧乏で、絵を描いたりして、物々交換をして、生活したいですね。困ってたら、お米作ってる人が「じゃあ、お米あげるよ」って、「じゃあ、その絵あげるよ」みたいなかんじの(笑)。
 ほんとうの意味で助け合える世の中がいいと思います。だから、みんなが、もっと貧乏だったらいいなって思います。もっと野生に近い、でも、高等動物だから、絵も描けるし、字も書けるし、言葉も交わせる。
 なんか、ちょっと、人間は、もうちょっとアタマ悪くても良かったんじゃないかなって。それか、もっと、突き抜けて本当に良ければ、戦争なんて起こす必要もないし、みんなが、もっと平和に生活できるように考えることが、いくらでもできるじゃないですか。必要なものって、そんなにないと思うんです、生きていくうえで。

 § § §

 多岐にわたる表現の変遷を伺っているうちに、とても大きなアイディアの話になっていました。もしかしたら、理想という部類に入るアイディアではあるけれど、世の中のすべてが幸せであって欲しいという、本当に、みんなが持つべき気持ちです。自分だけが良ければいいのではなくて、自分が良くあるためには、全体も、みんなが良くなければ、世の中は歪んでしまう。
 お話を伺った彼女のアトリエは、片隅に彫金のための作業台があったり、壁には作品が無造作に掛かってたり、漆黒のちびっこい愛犬が、控え目な愛くるしさで出迎えてくれたりします。一杯のお茶で、ずいぶん長居をしてしまいました。

【Ngene掲載:2007年3月9日】

前編|後編|

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katsuyamayukako-thumb.jpg

勝山ゆかこ
1975年長野県須坂市生まれ。長野市在住。
絵、オブジェ、インスタレーション、写真、イラストなど、手段・手法にとらわれず独自の切り口で創作活動を続けている。2006年から新たにハンドメイドの彫金ブランド百文[ momon ]を展開。
momon | Yukako Katsuyama
百文[ momon ]
Ricky
§ § §

【追記:2011年11月3日】

 この話をしたのは、もう5年近く前のことになります。これからの社会が人間的で楽しいものになって行くために、こういう価値観が社会全体に広がって欲しいと、強く思いながら掲載したインタビューでした。

 けれど、その後、人間性は、社会から、もっと、もっと、追いやられて、今では、さらに危うい状態になってしまいました。そして、2011年、未曾有の大惨事と、近世以降の社会体制が生んだ惨禍が、あちこちで社会のはらわたを抉り出し、まるでアンシャンレジームを思わせるような、旧態、現状維持の価値観と、人間性を回復して幸せな方向へ向かおうとする価値観が、きわだって拮抗しています。

 アンシャンレジームに対するフランス革命のような、わかりやすいパラダイムシフトは、どうやら、現実には存在しないようです。はたして社会がどちらの方向に回頭するのか、わくわくする期待感や、ガックリとうなだれてしまう失望や、怒りや、いろいろな出来事が、ばらばらに、あちこちで勃発しています。

 ここで語られている勝山さんのアイディアは、とてもシンプルで、根源的。紀元前、人類が、平和で健全な、人間的な社会の成立を目指していた頃の、ヘレニズムの思想や、東洋の古代思想と通ずるものを感じます。

前編|後編|
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プロフィール

宮内俊宏

Author:宮内俊宏
音楽・文化・アートを柱に、社会が、おもしろく、少し幸せになるような、いろいろなことを試みています。

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